電話で名前が言えない私が、あの手この手で試してきた「名乗り対策」の話

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吃音持ちにとって、固有名詞は鬼門です。

言い換えができない。回避できない。自分の名前も、会社名も、どうしても「それ」を言うしかない。これは吃音あるあるのど真ん中で、わざわざ説明するまでもないことだと思いますが、なかでも「電話での名乗り」はなかなか手強い相手です。

逃げ場がない、相手は静かに待っている、絶対に言わなければならない——何とも言えない空気で
どんどん喉が絞られてくる感じです。

今回は、そんな「電話での名乗り」に対して私が試してきた対処法を、いくつかまとめてみます。どれも「これで完全解決!」というわけではもちろんないですが、ピンチの時にほんの少しでも役に立ったら幸いです。


その1|名前を「読む」

シンプルですが、あなどれません。

紙に自分の名前を書いておきます。名刺でもいいです。電話が鳴ったら、その紙を手元に置く。そして名乗るときは、ただそれを「読むだけ」という意識でいきます。

「言う」と「読む」って、当たり前ですが全然違うと思います。自分の口から言葉を生み出すのではなく、目の前にあるものを声に変換するだけ、という感覚です。

朗読や音読でほとんど詰まらないという方には、これは合うかもしれません。「あとはこれを読むだけ」と思い込めたら、ちょっと楽になります。


その2|名前を「書きながら読む」

その1のバージョンアップ版です。

メモ用紙とペンを常に電話の横に置いておきます。電話が鳴ったら、これから言うべき自分の名前をゆっくり書き始める。そして、書いた文字をそのまま声に出します。

ポイントは、「書いている文字を、声に出して説明してあげている」という意識を前に置くことです。書くという動作が先行しているぶん、「今から名乗らなきゃ」という発話プレッシャーがほんの少しだけ後退します。「私は今、書いてる文字を声に出してるだけ」という、ちょっと人ごとみたいな意識が生まれます。

これが意外と効きます。完全には説明できないのですが、発話モードから少しだけ距離が生まれる感じ、とでも言えばいいでしょうか。


その3|名前の前に「あ、」を置く

これは少し理屈っぽい話になりますが、私の中ではいちばん面白い発見でした。

名前を言う直前に、「あ、」とひとこと、気持ちちょっと大きめに声を出します。

なぜ「気持ち大きめ」がポイントなのか。

吃音には、人によって「発動しやすい状況、しにくい状況」というものがあります。不思議なことに、それは単純に「緊張の強さ」とは一致しません。大勢の前でのスピーチでは極度に緊張するのに妙に吃らなかったり、逆にリラックスしているはずの家族との会話でよく吃ったり。「閾値」みたいなものがあって、それを超えると吃音モードが切り替わる感じ、と私は理解しています。

で、「あ、」を意図的に出す話に戻ります。

「あ、」と言ってしまうと、電話の相手は「この人は次に何か言う」と受け取ります。電話での「あ、」には、「続きがある」という意味しかありません。無言のまま「あ、」で終わる人はいない。つまり、「あ、と言った以上、このあと必ず何か言葉が続く」という状況を、自分で作り出せるわけです。

後には引けない状況に自分を追い込むことで閾値が上がり、「吃音が発動する範囲」からはみ出ることができます。

ただし「気持ち大きめ」は本当に大事で、弱々しい「あ……」だと、「何かを言う前の、あ」感が出し切れず、「このあと言葉が続くはずだ」という流れができません。堂々と「あ、」を出すのがコツです。慣れるまではちょっと恥ずかしく、勇気が要ります。


その4|最初の一音だけを、思いきり伸ばす

難発(言葉が出てこない、無音になる)タイプの方に特に試してほしいのがこれです。

たとえば「田中です」と名乗るなら、最初の「た」だけを「たーーー」と伸ばして出します。

ポイントは「田中のなかの、た」ではなく、「たー」という本当に「た」という一音だけを独立させて出す意識です。単独の一音なら詰まりにくい、という感覚は、吃音者の方ならわかってもらえると思います。

「たー」が出てしまえば、あとはどうにかなります。少なくともこの一語で無音のブロック状態ではなくなったわけですから「たー、たた、田中です」みたいに、ちょっと吃りながらでも続けられます。「え、なんで電話を受けたのに何も言わないの?」という、あの気まずい状態だけは避けられます。

……ただ、これは私にとってはかなりハードルが高かったです。

最初から「伸発や連発では吃る」ことを前提に声を出すのは、難発のブロック状態だけは避けるためとはいえ、やっぱり抵抗があります。でも「無音の沈黙に耐えられない、多少吃ってもいいから声さえ出れば」という方には、有効な手だと思います。


まとめにかえて

「完璧に名乗れる方法」は、残念ながら私にはまだ見つかっていません。

でもそれぞれの方法に、それなりの根拠と手応えがあります。「読む」「書きながら読む」「あ、を置く」「最初の一音を伸ばす」——どれかひとつでも、あなたの状況にはまれば嬉しいです。

電話が鳴るたびに心拍数が上がる人生、なかなか味わい深いものがありますが、少しでも楽になりますように。

みなさんも、こんな方法試してるよ、というのがあればぜひ教えてください。

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